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富山県における蘚類相の基礎解明
坂井奈緒子(富山市科学文化センター)
富山県のコケ植物相については、いまだよく分かっていないが、大正おわりから昭和はじめ、日本のコケ植物研究の初期に、富山県出身の笹岡久彦氏が富山県産の蘚類目録を発表している。これはコケ植物のうちの蘚類について報告した、富山県ではじめての記録であり、笹岡氏以降、まとまった富山県産の目録は出ていない。富山県の蘚類相の解明には、笹岡氏の目録を調査することが必須と考えられる。目録に標本の記載は無いが、笹岡氏の標本(笹岡標本)を調査し、文献データに対応すると思われる標本を検討することができると考えられる。幸いにも多くの笹岡標本が残っており、国内では国立科学博物館にその大部分がある。
そこで、笹岡氏が発表した文献を調査して富山県産蘚類の文献データを集めること、笹岡標本が収蔵されている京都大学総合博物館、大阪市立自然史博物館、国立科学博物館で標本の表記ラベルからデータを集めること、そして文献と標本の総合データベースを作成することを行った。
文献調査
笹岡氏が報告した蘚類の文献調査をしたところ、富山県産の蘚類が記載されたものは下記の9文献であった。
笹岡久彦.1910.越中国産蘚類報告 第一.植物学雑誌 24:(197)-(198).
笹岡久彦.1914.越中国産蘚類報告(其二).植物学雑誌 28:(191).
笹岡久彦.1916.越中国産蘚類報告(其三).植物学雑誌 30:(82)-(83).
笹岡久彦.1921a.最近発表若クハ所命ノ新蘚類.植物学雑誌 35:(68)-(69).
笹岡久彦.1921b.蘚類植物雑記(一).植物学雑誌 35:(272)-(273).
笹岡久彦.1925b.蘚類植物雑記(四).植物学雑誌 39:(219)-(221).
笹岡久彦.1938a.富山県産の蘚類.富山教育 (292):64-79.
笹岡久彦.1938b.富山県産の蘚類 其の二.富山教育 (295):64-77.
笹岡久彦.1938c.富山県産の蘚類 其の三.富山教育 (297):62-78.
上記の文献から富山県産蘚類の文献データのデータベースを作成したところ、亜種や品種を含めて343分類群にのぼった。これらには無効な学名(裸名)での記載や現在使用されていない学名、その後の研究の結果同種あるいは種が分けられたものなどが含まれている。
標本調査
笹岡標本が収蔵されている京都大学総合博物館、大阪市立自然史博物館、国立科学博物館植物部門で標本調査を行った。それぞれの標本庫で、富山県産の標本を調査し、表記ラベルに記載されている種名・産地名・採集者名・採集日等を記録した。京都大学総合博物館に収蔵されている笹岡標本は320点あり、そのうち富山県産の標本は54点あった。大阪市立自然史博物館には笹岡標本は93点あり、富山県産のものは9点あった。国立科学博物館には、1万点を超える笹岡標本が収蔵され、富山県産の標本は465点あった。その他に、「日本蘚類植物標本集彙第一集」(笹岡氏が作製)が国立科学博物館、大阪市立自然史博物館に収蔵されている。標本集彙には、100種の標本が入っており、そのうち富山県産の標本は23種含まれていた。これらの富山県産標本の表記ラベルの記載から、標本のデータベースを作成した。
富山県産蘚類の文献データと標本データのデータベースの作成
文献データと標本データを照合したところ、文献データに対応すると思われる標本は423点あった。文献データの343分類群中、191分類群は対応すると思われる標本がある。
このデータベースの作成で、文献データに対応すると思われる標本が分かり、文献データを検討するための基礎ができた。標本の再確認が進めば、文献データの信頼度は高まると考えられる。今後も継続して、笹岡氏の目録調査を行いたい。
謝辞
本調査をするにあたり文献や標本のご教示等、樋口正信博士(国立科学博物館)、北川尚史博士(奈良産業大学)、木村全邦氏(大阪市立自然史博物館)、黒川逍博士(富山県中央植物園)、永益英敏博士(京都大学総合博物館)、佐久間大輔学芸員(大阪市立自然史博物館)の多大なるご指導ご協力を受けました。深く感謝申し上げます。
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