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富山県のセッケイカワゲラ類
根来尚(富山市科学文化センター)
富山県立山をはじめとする中部山岳地域は多雪で知られ、夏季においても各所に雪渓が見られる。その雪渓上にいわゆる「雪虫」=セッケイカワゲラ類(無翅小形黒色のカワゲラ類)が生息することは昔から知られ注目されていた(注1)。
セッケイカワゲラ類は、成虫が雪上で活動し尾根などの高台や、黒色の物体を目指して歩行し、定位には太陽光の光を利用する事などの報告がある。
しかし、セッケイカワゲラという名称が知られている割には、日本では分類や分布・種間関係など基礎的研究は立ち遅れており、確認種の特定も難しく、各種についての生態情報などは断片的な報告例があるにとどまっている。
現在、日本のセッケイカワゲラ類は2科3属10種(Eocapnia nivalis, E. yezoensis, E. shigensis, Apteroperla yazawai, A. babensis, A. elongata, A. monticola, A. tikumana, A. verdea, Paraleuctra ambulans)が知られている。それらの内、富山県の立山周辺域から採集され記載命名されたセッケイカワゲラ類が、A. yazawai(立山剣岳)、A. elongata(立山地獄谷)、A. babensis(黒部峡谷祖母谷)の3種有る。
富山県内では、上記3種以外にセッケイカワゲラ(E. nivalis)とセッケイカワゲラモドキ(A. monticola)が報告されているが、富山県内でセッケイカワゲラとして記録されたものの少なくとも一部は誤りであり、セッケイカワゲラモドキとされたものは誤りである。A.
yazawai、A. elongata、A. babensisにしても記載命名された時点での報告しかなく(注2)、また、A. yazawaiのように(注3)分類学的に問題の残る種も存在する。
以上のように、富山県内でのセッケイカワゲラ類についてはどのような種が分布するのか自体も、当然それらの種の分布範囲や発生消長も不明である。
まずは、出来る限り多くの場所で長期にわたり収集された標本を集積し、正確な種の同定を図り、各種の分布・発生消長を知る必要がある。
2000年の早春から、富山県内の立山地域(弥陀ヶ原、天狗平、室堂、黒部平等)等の山岳地帯を中心に、約20ヶ所を調査し、積雪上に現れるセッケイカワゲラ類を収集した。
この結果、富山県内から、2属10種のセッケイカワゲラ類が得られ、うち3種が、Eocapnia nivalis、E. shigensis、Apteroperla
elongata と同定され、Eocapnia属の1種・Apteroperla属の4種が未記載種であった。残り2種については、Apteroperla
babensis、Apteroperla yazawaiではないかと考えられるが、まだ未確定である。
今後、A. babensis、A. yazawai 2種の確認を行う事と、各種の分布・発生消長、種間関係等の調査を継続したい。
以上の報告の作成にあたって、標本の同定、文献・資料のご教示等、(株)環境指標生物の清水高男博士の多大なる援助を受けた。深く感謝申し上げる。
注
注1.雪虫とは、雪上で活動するさまざまなグループ―カワゲラ類、ユスリカ類、ガガンボ類、トビムシ類…―の昆虫類を言うが、初夏の高山ではセッケイカワゲラ類がもっとも良く目立つ。
注2.和名については、セッケイカワゲラが低山にも普通であることからユキクロカワゲラにし、高山帯にも見られるセッケイカワゲラモドキをヤマクロカワゲラもしくはApteroperla属の原和名からヤマハダカカワゲラに変更しようという意見がある。
注3.♀のみにより記載され♂が未知。♀は種を判別する特徴に乏しく、本来♀のみでは種の記載は難しい。♂が判明すれば他のいずれかの種と同種ということになるかもしれない。
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